(13)・・・起死回生・・・

ちょっと昔の話…大切な友人の子どもさん。寡黙で不安が強く、生き辛さが目に見えて、しんどそうだった。感覚過敏があり、絵が上手で、くじらの絵を何枚も書いてもらった。なんとか元気になってもらい、社会で生きて行けるように…との思いから、ルボックスを処方したり、エビリファイを出したこともある。
副作用も無く(そう見えた…)、「きちんと飲むんやぜ」…と言っていたら、ある日、強い抗議を受けた。「僕を薬で漬けて、どうするんぞな?」その頃の僕は、聞く耳を持たない唐変木※、「続ける方がええよ」としか言わず、遂に、決裂した。

その後、彼は自分で減断薬に成功し、障害年金も捨てて、元気に働いている。今の僕なら、こんな罪は犯さないはずだが、彼が断薬してくれたお陰で、罪一等を免れることが出来た。ピッチャーが作った失点を、一挙に救ってくれた、起死回生の逆転ホームランだった。
これは、自分にとって大きな分岐点だった。こういう風に、多くの当事者には教えられることが多い。学ぶ機会は、毎日のようにある。それを見逃し続けて、医者人生が過ぎて行く。唐変木とうへんぼくのまま終わるのか?まだチャンスが残っているのか?人生が、残り少なくなって、今頃焦るのなんの…。

※ 唐変木は、正式には、栴檀せんだんと言う。役に立たない木という意味で、唐変木と言うが、今は生垣に活用され、木の実は、数珠に使われるらしい。「せんだんは双葉より芳し」という場合、栴檀じゃなく白檀であって、昔から、貴重な香木として、武士や貴族が取り合いになった。
(→蘭奢待らんじゃたい)優れた香木は、双葉の頃から、もう良い香りがする→優れた人は、幼少期から、物が違う…という意味だろう。
今の教育は、珍種、変種、希少種を標準化しようとして、せっかくの白檀でも、片っ端からダメにしている。