(156)・・・『ルポ収容所列島』・・・

 興味深い新刊本が出たので、紹介したい。これからの精神医療従事者には必読であり、それ以上に、精神科、心療内科にかかっている人こそ、読んでおいてほしい。

水を差すようだが、自分にとっては、既に2冊の先行本があって、正直、目新しいものは無かった。その2冊とは、『精神医療につながれる子どもたち』&『精神医療ダークサイド』である。

神奈川精神医療人権センターのホームページ内で、佐藤光展さんが紹介文(→「精神医療ルネサンス」)を書いているので、そちらを参照されたし。今度の本は、精神医療全般と言うより、精神病院医療についての告発本である。

今の自分にとって、最も大事な焦点は、『誤診』と『薬害』である。だから、この本は物足りないと思ってしまう。

相変わらず毎日、セカンドオピニオンをやっているのだが、やって来る人には共通項がある。あまりにも、統合失調症が多い。精神病院なら、尚更間違いない。そして、うつ病が多く、心療内科クリニックにその傾向が強いのだ。

人口比において、松山は心療内科+精神科外来数が国内1,2位を争っていて、その結果、うつ病患者数が圧倒的に多い。僕が診るところ、うつ病など滅多に居ないし、まして統合失調症などまるで見かけないのだ。憂鬱だと言ったら、誰もが「うつ病」にされ、抗うつ剤の餌食にされる。この誤診問題と薬害問題を書かずに、精神医療を語ることは出来ない。

愛媛大精神科→松山記念病院→心療内科クリニック開業…というコースは、悪魔の道である。診断において、処方において、大学病院は機能していない。むしろ、諸悪の根源である。

次に、発達障害については、この本もポイントがズレている。まず、発達障害は、診断名ではない(=疾病ではない)。疾病になるのは、「発達障害の二次障害」である。

その上で敢えて言うが、発達障害診断が増えることは、望ましいと考えている。なぜなら、発達障害は生来性の気質であり、すべてはスペクトルであって、発達障害気質が無い人など居ないのだ。(→人は皆、発達障害である)

多くの精神疾患が、「発達障害の二次障害」だとしたら、統合失調症やうつ病は存在しなくなる。そうすれば、抗精神病薬や抗うつ剤は不要になるのだ。内分泌疾患やアルコール依存症、パーキンソン病や認知症の幾つかもも、発達障害と無縁ではないと考えている。

友だちが作れない、学校が苦手、何かに凝りだすと止まらない、衝動性に悩まされている…そんな子供たちに、キチンと「診断」を付けて、個性に応じた生き方を考えることは大事だろう。100人居れば、100種類の生き方があり、100種類の道を通って大人になればいい。もちろん、発達障害という個性に、精神薬を用いるなど、もってのほかである。

こういう考え方が広がると困るのは、一に製薬会社。二に、治療より鎮静しか知らない精神科医である。製薬会社は、抜け目がないから、発達障害関連の薬をどんどん出して来るだろう。今でも、コンサータ、ストラテラ、インチュニブ、エビリファイがあるが、絶対に飲んではいけない。

人は皆、不完全。人は皆、未熟者。人は皆、ストレスに弱い。人は皆、どこかに弱点を持っている(=どこかが優れている)。一体、どこに「健常者」が居るだろうか?

ストレス反応や思春期混乱、更年期不安定などから、解離性症状や一過性精神病状態になる。それに対して、過剰な精神薬処方をし、生涯服薬に繋げるから、統合失調症&うつ病がむやみやたらに増えてしまう。本態は、「薬剤性精神病」「薬剤性遷延性うつ病」に他ならない。

セカンドオピニオンに来る人達は、精神科によって作られた「薬物依存症」でしかない。だからこそ、薬を抜くのは容易ではない。離脱症状との斗いこそ、医者にとっても患者にとっても、厳しい「治療」になるのだ。

精神科医が、寄ってたかって、誤診し、こじらせ、最後には電気やクロザピンが待っている。それでもどうにもならなくなって、長期収容や不当収容が生じてしまう。

この国のどこにまともな精神医療があるだろうか?

NHKなど、やたらと発達障害を取り上げる。しかし、素人みたいな精神科医が監修しているから、見るに耐えない。美談を取り上げ、一部の有能なアスペルガーとか、一部の絵や音楽のうまい人が登場しても、現実と乖離しすぎている。市や県に相談に行って、「発達障害専門医」を紹介され、薬害に沈むという現実を語らずして、番組を作る資格は無い。どの業界においても同じだが、「専門家」くらい危険なものは無いのだ。

「ルポ収容所列島」の背景には、政治、経済、法律、教育、道徳など、あらゆる要素が絡んでいる。そうだとしたら、ポイントが拡散しすぎて、誰も手に負えない。だから、分かりやすく、しつこく言おう。鍵は、あくまでも『誤診』&『薬害』である。

(出典:『ルポ・収容所列島: ニッポンの精神医療を問う』風間直樹(著)・井艸恵美(著)・辻麻梨子(著))