(127)・・・偏食じじい・・・

 最近は、イチゴもブドウもトマトも甘くなった。酸っぱさの無くなったイチゴやブドウは、甘すぎて、果物とは思えず、食う気になれない。逆に、ニンジンは、昔の臭みが無くなって、僕には食べやすくなった。

チーズ、納豆、らっきょの3つが、僕の天敵だったのに、今は何ともない。要するに、味覚以上に、嗅覚過敏だったのだろう。人間の味覚は、こんなにも変わるのだ。子どもの頃は、偏食で難儀した。隣の弟が、バラ寿司にマヨネーズをかけ、最後にお茶をかけて食うのが、気持ち悪くて、よく喧嘩になった。

 小学校低学年までは、皆が貧しく、食事は芋だらけだった。主に、さつまいも、ジャガイモであり、合間に里芋やカボチャが出て来た。これらに麦飯だと、のどに詰まりそうで、ゲ~ゲ~言いながら食べたものである。そのトラウマがあって、食道の細さもあり、詰まりそうなものが苦手である。

同じ理由で、豆ごはんも苦しかった。グリンピース、そら豆、黒豆・・どれもダメだった。赤飯も、豆ごはんである。豆が詰まりやすく、もち米がまた重い。
給食のパンは、棒のように固く、チャンバラごっこが出来たし、友達の頭を叩いて遊べるくらいだった。しかし、固くて飲み込みにくく、これまた難儀した。

パンを食べれず、腹をすかして、カキやミカンを盗んだ。米を一握り、黙って拝借し、焼き米にして食べるのは、結構旨かった。

診察室で子どもに会うと、決まって同じことを聞く。片付けは出来る?忘れ物無くし物はない?車酔いはしない?何か集めてない?けがは多くない?方向音痴は無い?そして、偏食は無い?

自分の子ども時代は、味覚嗅覚の過敏があって、それ以外にも皮膚過敏があった。異常に痛がりであり、冷たがりであり、熱がりで、こそばがりだった。今も、歯医者は怖くて仕方がないし、アイスを食べると後頭部に激痛が来る。そして、熱いコーヒー、紅茶、シチューなどが飲めないので、場合によっては氷を入れて冷ますしかない。

今は、聴覚過敏に最も苦労していて、偏食の方は大分治って来た。いずれにせよ、気難しい人間には違いない。誰とも一緒に暮らさない・・それが正解である。

外来の子どもたちは、もちろん僕の上を行く子だらけである。漢方の服薬は、誰もが苦しんでいる。ところが、何でも極であり、水を使わず、漢方を口に含んでずっと味わいながら、ゆっくり飲む子どももいる。6歳のその子に聞くと、「これは、半夏が入っとるわい」「こっちは、桂枝の味じゃ」などと、利き薬をやっている。おそれいります。まいりました。

(出典:イラストAC