(68)・・・発達障害というラベル・・・

 よく言われる。「おまえは、ラベル貼りをしている」。「それは、差別だ!」と。

 そう言う人こそ、発達障害への偏見があり、自分の中の差別感情に気付いていないように思える。執拗に、「個性でしかない」「障害ではない」「HSPなら、受け容れられるのに」などの反論も多い。HSPとは、「非常に感受性が強く敏感な気質を持った人」というはやりの概念で、「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」の頭文字である。

自分としては、まず、子どもの就学について、ラベルで区分けするのには、反対である。昭和50年代の、養護学校義務化反対運動にも参加した。当然ながら、統合教育が理想であるが、養護学校を選択する自由も保証すべきだろう。昔は、クラスの中に、知的障害、自閉症、てんかんの子どもも当たり前のように居て、いじめたり、庇ったり、助けたり助けられたりしていた。そういう小児体験が、その後の差別感情の大小を左右するだろう。

その上で言いたいのだが、診断を明確化する時に、発達障害(発達特性)が土台にあるかどうかは、極めて重要だと思っている。例えば、鬱状態に際して、それがうつ病に近いものか?それとも、発達障害の二次障害なのか?

抗うつ剤には、アクチベーションシンドローム(賦活症候群ふかつしょうこうぐん)というものがある。抗うつ薬の処方初期または増量によって、不安、イライラ、ソワソワ、パニック発作、不眠、易刺激性いしげきせい、衝動性、攻撃性、自傷、自死衝動、躁状態などを起こすものを言う。この過敏な反応が、発達障害が土台にあると、極めて高率に発生しやすい。

SSRIやSNRIという新規抗うつ剤が導入されてから、双極性障害Ⅱ型などと言う診断が急速に増えた。こんなに、双極性障害が増えるはずがない。本来の躁状態は、気分が高揚しエネルギーに満ち、世界は素晴らしいもので、自信に満ち溢れる。しかし、現在の双極性障害Ⅱ型の躁状態では、怒りっぽさ、攻撃性が前面に出ていて、まさに薬剤性(抗うつ剤)のアクチベーションでしかない。未だに、双極性障害なのに、抗うつ剤を飲まされている人のなんと多いことか。

次に、精神病様状態の場合でも、それが発達障害の二次障害かどうかの鑑別が、必須になって来る。幻聴妄想があれば、統合失調症だと考える人が多いのは、精神科医自体がそうだから、やむを得ない気もする。この鑑別をしていないと、抗精神病薬を使うのか?使わずに済むのか?使っても、極微量で済ませるのか?その後、生涯服薬を受け容れるかどうか?全てにおいて、人生が左右されるのだ。
こういう処方問題を左右する以上に、その子ども(大人でも同じ)のハンディキャップを理解しておかないと、過重な負担を強いることになる。何が苦手か?何が困るのか?何が不安なのか?
よくある例だが、耳からは理解できない(ワーキングメモリーが弱い)子どもに、文字や絵で見せると理解出来やすい。一つ一つ集中するタイプ(シングルタスク)に、複数の用件を与えると混乱する。「あれ、やっといて」という抽象的表現を避け、具体的に言わないと、意味を読めない子どもが居る。聴覚過敏の子どもが、イヤホンをしている時、理解するのか、取り上げるのか?学校集団が苦手な子どもに、登校刺激をし続ければ、もう虐待に等しくなる。学校に行かないことで、思春期の過敏な時期を乗り越えようとしているなら、それを受容すべきではないか?

「皆が出来ているのだから、おまえにも出来るはずだ…」という親心から、努力や根性、気持ちの持ち方やトレーニングを大事にするのは、愛情に近似しているが、実は、追い詰めているだけという事も多いのだ。つまり、それぞれのハンディキャップを見据えてこそ、(同時に、得意なものを見つけてあげる)、ようやく分かり合える糸口になる。

そう言う訳で、発達障害(発達特性)の的確な診断は、
①精神薬の、不要な処方、過剰な処方、長期の処方からの防衛
②得意を見つけ、苦手を避ける、ミスマッチによる二次障害からの防衛
という最重要課題を担っていると言ってもいいだろう。

今日は、珍しく?真面目に書いたぞよ。

(出典:イラストAC
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