(199)・・・毒舌相談室(12)<クレーム>・・・
「今日は、真面目に聞いてください。ここに通いだして、もう何年にもなるけど、一向に働けんし、治りません。最初の時に、任しとけ、と言うたでしょ?」
「そりゃ、申し訳ないなぁ。わしの力不足じゃな」
「わたしは、これからどうしたらええですか?」
「色々、話して来たはずじゃが、理解できてないのは、こっちの責任じゃわい」
「最近は、診察時間も短いし、話す暇がありません」
「いやはや、申し訳ない。1時間に10人に会うことも多いけん、どうにもならんのよ。これじゃ、診療とは言えんのう。時間が欲しい人は、8時に来よるし、わしは5時にはここに居るけん、朝ならゆっくりできるぞな」
「そんな朝から起きれるわけないでしょうが。このまま働けんで居れ言うんですか?」
「何べんも言うたはずじゃが、働くことが目標じゃとは思うとらんのよ。もちろん、働くのは自由じゃけんどな。そもそも、病気は治すんが目標じゃが、持って生まれた気質とか性分とかは、付き合うて行くしかなかろがな」
「そういう言い方をして突き放すんよ。きついなぁ。なんでいつも怒っとるんですか?私にだけ、機嫌が悪いんですか?」
「いや、すまん、すまん。なんも怒っとらんのよ。愛想が悪いんかのう?笑顔が足りんのか、皆にそう言われるわい。人相が悪いんは、人間性が出とると思とるよ。申し訳ない」
「いっつも怒っとるように見えますよ。大体、どうにかなるように希望を持たせてくれんですか?」
「ほうじゃなぁ。わしの話は、希望に満ちとらんのう。何度でも謝るが、ウソはよう言わんのじゃ。すまん、すまん」
「先生は、もう長うないけん、冷めとるみたいじゃけど、私らはまだ生きとらにゃいけんのです。もっと、欲しい薬を出してください。薬でボケる言うけど、ちぃとボケてないと、暮らせんです」
「ほうか、もう老い先短かに見えるか?ハッキリ言うなぁ、おおとるけど…。薬の事は、すまんが譲れるもんと、譲れんもんがあるんよ。昔から、薬物中毒ばかり作って来たけん、もうイヤなんよ。今のやり方になって、自傷、自殺、興奮、混乱なんかは、圧倒的に減ったんぞな。皆、簡単に通院から離れよるけん、良かった思とるわい。あんまり、医療に期待したらあかんぞよ」
「年金も取ってもろたし、生きてはいけるけど、親が居らんようになったら、一人ぼっちになります。それが不安でしょうがないんです」
「一人が辛い人は、作業所に行ったり、デイケアに通ったり、訪問看護を受けたりしよる。あれも、向いとる人にはええが、向かん人にはかえって苦しいようじゃ」
「あんなんは、気が進みません」
「悲しいことに、生きとるんは誰にも寂しいもんじゃ。どこまで行っても、孤独との斗いじゃなぁ」
「ふぁ~い。なんか、また誤魔化された気がします」