(144)・・・毒舌相談室(3)『溺愛』・・・
「今日は、どうしても聞いてもらわんといかん」
「そう思いつめた顔せんでええけん、話しとぉみや」
「親は、長男の僕を、大事に大事にしてくれたんじゃが、入る学校も就職先も決められて、着る服までこまごまと世話してくれたんです」
「ほう、ほりゃむつこいのう。反抗せんかったんかな?」
「いや、ちょとでも言うこと聞かんと、ヒステリーみたいになったり、寝込んでしもて、飯も食わんようになるけん、こっちが折れてしまうんです」
「何を言うとるんぞな。それが手じゃけん、振り回されたらいかんのぞな」
「いつもいつも言うこと聞いとったら、笑顔でおってくれるけん、ついつい負けてしもて…」
「子どもを、介護者、女中、ペット、勲章なんかの代わりにして、結局、子どもを愛しとらんのよ。愛し方も知らんのぞな。一種の障害じゃのう」
「ほれで、職場の女性と付き合い始めて、結婚したいと切り出したんじゃが。大騒ぎになっとるんです。勝手に相手の親のとこまで乗り込んで、うちの大事な息子はどこまわり出せんけん、諦めてくれとか言うたらしい。もうそれで、寝れんし食べれんし、仕事に行く気にもならんし、行き詰っとるんです」
「あほか?なんも難しいことあらへんがな。その女性を愛しとるんなら、駆け落ちしたらええんじゃがな」
「そんなことしたら、首吊る言うんです」
「おうおう、やってもらおう。首吊ってもろたらスッキリするがな」
「そんなこと言わんで下さい。あれでも、大事な親じゃけん」
「ほな、簡単じゃがな。大事な親の言う通りにして、彼女とも別れたらええんよ。こんな調子で結婚したら、奥さんが泣くだけじゃがな」
「誰でも、親孝行はせんといかんのでしょ?神様の天罰が下るとか言うでしょが」
「あほか、どこにそんな神様居るんじゃ?神も仏もあるもんか。あんなもんに振り回されとる人間は、皆病気じゃ。わしら、自慢じゃないが、鳥居じゃの墓じゃの、片っ端からションベンかけて生きて来たぞな」
「おとろしい。おとろしいこと言わんで下さいや。あの歳になった親を泣かすんですか?」
「ほうよ、ほうよ、かまんかまん。自分を殺して、何が親孝行じゃ?いつまでヘソの緒付けて生きるんぞな」
「彼女が好きで、別れたくないんですわ」
「おう、わかったわかった。ほなら、親も彼女も捨てて、旅にでも出たらどうぞな?」
「私は真面目に相談しとるんです」
「何言うとるん?こんだけ真面目に答えとるがな。早よ言うたら、煮え切らん男は、おかあも泣かすし、彼女も守れんぞな。なもかも、やめいやめい」
「なんでそんなきつい事ばかし言うんですか?」
「聞かれるけん、答えとるだけじゃがのう。わし、実際に、こうやって生きて来たけんな。生まれて来た時ゃ裸じゃないか♪死んで行くのも、裸じゃないか♪生きている間に ひと仕事、男なら やってみな♪」
「そんな歌、知りませんがな」
「昭和35年のマヒナスターズじゃ」
「歌唄うとる場合ですか?もう分かりました。相談して損したわい。自分で決めますわ」
「ほうじゃほうじゃ、ほれでええんじゃがな。その意気、忘れるなよ!」