(58)・・・蒐集癖(しゅうしゅうへき)・・・

 アスペルガーのこだわりは、どこに向かうか分からない。研究や芸術なら、凄いことになるし、ゲームやギャンブルではつまらない。南方熊楠牧野富太郎など、Wikipediaで少しは分かるだろうが、ほとんど狂気と紙一重である。我がアスペの弟たちは、次弟は、サラブレッドの血統を極めたし(→ケヤキの向こう)、末弟は、幼少期からの植物好きを、仕事や研究にまで高めて行った(→青柳庵日記)。二人とも異能だし、紙一重の男である。

 平凡アスペの僕は、蒐集癖しゅうしゅうへきや仕事中毒に向かったが、もちろん下らぬレベルである。大村博士のイベルメクチンのように、地中の微生物蒐集なら、世の為になっただろうに…。
こちらは、生まれついての、へそ曲がり、上昇志向に対する下降志向が強く、メジャーを嫌ってマイナーにはまる…例えば、スポーツも好きだが、NHKが取り上げないものに興味があった(ホッケー、ハンドボール、ボート、フェンシング、陸上中距離…)。

 さて、歌謡曲だが、「誰も知らない歌謡曲」の蒐集に、20代からはまっていた。演歌ではない、童謡でもない、懐メロでもない。GSもダメ、和製ポップスでもない。阿久悠でもなかにし礼でもなく、古賀メロディでも吉田正でもない。ビートルズなど、吐き気がするほど嫌いだった。
そんな歌謡曲というジャンルの、そのまたうらぶれた世界の、そのまた売れなかった名曲を掘り起こすのだから、誰にも分かってもらえるはずもない。
昭和40年代、松山銀天街の古書店には、ドーナツ盤レコードが、無造作に詰め込まれた段ボールが、いくつも並べられていた。半分以上は、ジャケットも無い丸裸のレコードで、傷だらけのものばかり。1枚5円か10円のもので、蓄音機にかけると、ザラザラと音がして、途中で飛ぶことも珍しくなかった。そこがまたいいのである☆

 置かれているものは、ほとんどが、ヒット曲なので、それには興味が無い。大きなLPレコードじゃダメで、もちろん、CDではいけない。
誰かが買って、要らなくなって古本屋に売ったものだろうから、少しだけヒットしたものが多かった。しかし、レコード会社や放送局からの放出品が混じっていて、それが狙い目だった。精神病棟やパチンコ店などで、自分が一度だけ聞いたことがある、しかも、隠れた名曲と思われるものを捜し歩いた。誰かが知っていれば、もう興味が無くなる。

 神戸でも、省線(国鉄→JR)の元町ガード下商店街に、そんな店を見つけて、何度も通い詰めた。今なら、ネット検索で、簡単に買えただろうが、僕には今でもそこに興味は無い。うらぶれた店に出入りし、昔の情景や探し求める風景を含めてのレコード盤なのだ。

 診察室には、くじらグッズがいっぱいだが、それらも買い求めたことはない。誰かのセカンドオピニオンから頂いたものだったり、診察中に約束して、子どもたちに書いてもらった絵が、99%を占めている。ネットで集めても、何の意味も無いのだ。

 サ高住に入るにあたり、何百枚かのドーナツ盤や、その他のケッタイな蒐集品は、すべてを断捨離した。
あまりの大荷物を抱えていたんじゃ、三途の川は渡れんらしいわい。

(出典:イラストAC
(出典:イラストAC