(205)・・・毒舌相談室(14)<夢>・・・
「あのう、最近は学校に行きよるんですけど、夢が持てんのが悩みです。どうしたら、夢が持てますか?」
「ほう、そんなことで診察に来たんかな?親に連れられて来たん?」
「いえ、自分で来ました」
「ほうかな。夢が持てん…。誰でも、そう変わらんじゃろ?」
「友達は、医者になるとか、法学部に行くとか、皆夢があります」
「それ夢じゃろか?周りが言う事に影響されて、なんとなくそう思とるんぞな。逆に、君は今の社会の空気を知っとるけん、夢を描けんのじゃろ?」
「よう分かりません」
「君の方が、マトモじゃ思うぞ。この国にも、地球にも明るい未来なんか感じんわいな。そりゃ、わしら大人の責任じゃけどな」
「自分がおかしい思うて、診察に来ました。学校もよく休むし、朝になったら、行けん日があるんです」
「しんどかったら、休んだらええ。学校行くんが普通じゃいうんは、ウソじゃけん。苦手な人は、行かない自由もあるんぞな。どの道を通って大人になっても、かまんのぞな」
「親が辛そうにしとるし、自分が許せんし、それで手首を切ってしまいます」
「そりゃ、死にたいんじゃなく、生きたいんじゃ。生きたいけん、切るんじゃろがな」
「親に見つかったら怒られるけん、切ることも出来ません」
「切ってス~とするんなら、ここでお切りや。見とってあげるけんな」
「ありがとうございます。そう言われたら、切れんです。そいで、元の話はどうなったんですか?」
「夢かな?う~む、逆に小さいうちから、プロ野球選手になりますとか、政治家になりますとか言うヤツ居るじゃろ?あれ、気持ち悪いんよ。親の洗脳が強すぎて、自分の考えじゃないような気がするぜ」
「僕も、小学生の頃には、お医者さんになると言うてました」
「それは、言わされとったんよ。これから、自我が育って、自分というもんが出来てきたら、いずれ自分の夢が出てくるかもしれんぞ」
「そうだとええんですが…」
「夢を持ちなさい、希望を持ちなさい…ありゃ聞き飽きた文句で、あゝ言うのをステレオタイプと言うんぞな。誰もが、訳が分からんまま、漂うように生きとるんよ。それでいかんとは思わんぞ。人生いうたら、そんなもんよ」
「先生は、夢をかなえて医者になったん違いますか?」
「いや、そうじゃないんよ。誰もが、ちょっとしたことで道草をするし、わき道にそれる。運不運や偶然も多いんぞな。何がええんか、死ぬ時まで分からんぜ」
「そんなもんですか?よう分からんようになりました」
「学校行かんでも、バイトしたりして、動いてみたらええんじゃないんかのう?」
「まず、勉強して能力を最大限に伸ばして、自信が付いたら、社会に出ようと思とったんです」
「そりゃ、逆じゃろがな。まず外に出て、試行錯誤や失敗を糧に、鍛えられるんぞな。そのあと、何が足らんか分かったら、はじめて勉強する意味が出て来るんじゃけん。夢や方向性は、そのあとぞな」
「ある程度出来上がっていないと、社会に出るんが怖かったんです。ほれで、悩んでました。毎日、悩んでも答えが出ないんで…」
「君ら、そうやって悩むんはええことぞ。悩め悩め。若いんじゃけん、悩んだらええんじゃ。わしらみたいに、歳とってから悩むんじゃ遅すぎるわい。出来たら、もうちいと、走りもって悩めや。その代わり、答えなんか永遠に無いんじゃけん、それだけは知っとれよ」
「ふぁ~い」