(32)・・・大相撲・・・

相撲がつまらなくなった。そういう声が増えたようだが、なぜかその原因には、誰も触れない。舞の海が少し分かっているくらいだろう。
原因は、体重を増やし過ぎたことだ。そのまた原因は、高見山、小錦、曙、武蔵丸という超巨漢力士が入って来て、それに対抗するために、皆が皆、アンコ型に体型を変え、まわしを取る間もなく、突いたり押したりするだけの単調なものになってしまった。昨今は、突き出し、押し出し、はたきこみ、突き落としがほとんどである。あれじゃ、何の為にまわしをつけているのか?意味がないから、ふるちんでやれ!…と言うわけにはいかんわいな。

ボンクラ解説者も、突きが弱い、押しが弱いとは言うが、四つ相撲が弱い、とは言わなくなった。突き押しで出世しても、今の貴景勝を見ればわかるように、まわしを取られたら何も出来ない。過去にも、勢いだけで大関になった出島、雅山、武双山、千代大海など、あっという間に大関から陥落した。陥落しても戻ったのは、照ノ富士、栃東、三重ノ海など、やはり四つ相撲が出来る力士だけである。
突き押し相撲になってから、皮肉なことに、モンゴル勢がやって来て、こちらは四つ相撲一本だから、それに対して、為す術も無いのである。
相撲協会は、相撲取りのOBだけでやっているから、「大男、総身に知恵の回りかね」となり、知恵者が居ないのだから、進歩がない。

ラジオ時代からだと、好きな力士の最初は、前田山英五郎だった。直接は知らないが、エピソードが凄すぎて、しかも愛媛出身だったから、高砂親方になっても応援した。双葉山、羽黒山、照国などが強い時代に、張り手一発で勝つのだから、張り手禁止令が出されそうになった。まだ幕内の力道山を、張り手で失神させたのも有名な話。
横綱にはなったが、角界での評判が悪い上に、本場所中に野球観戦に行き、引退させられた。そこで終わらないのがこの男。高見山を連れて来て、外国人力士ブームを巻き起こし、海外巡業をやったのも前田山である。
女相撲の横綱、若緑を、松山巡業の土俵に上げ、「もう封建時代は終わった」と掟破りをやったのも、前田山の真骨頂だろう。朝潮太郎や高見山はじめ、朝潮大ちゃんから朝青龍に続く高砂一門の型破りは、今の朝の山のキャバクラ通い問題にまで繋がっていて、実に面白過ぎるわい。アウトロー前田山2世よ、出て来い!

さて、大相撲で誰が贔屓かと言えば、一に、若浪、二に、宇良だろう。
若浪は、178㎝で97㎏ながら、得意技は、吊り一本。昭和43年に、横綱北の富士以下大関を片っ端から、吊り出して、13勝2敗で幕内優勝を果たした。189㎝の明歩谷も、吊りの名人だったが、小兵ながらも吊り合いでは互角だったから、平幕随一の好取組だった。
得意技が無いのも情けない。内掛けの琴ケ浜、潜航艇の岩風、もろ差しの信夫山、逆取ったりの栃赤城、上手出し投げの栃錦、猫だましの舞の海、「そんな夕子に惚れました」の増位山大志郎…。
現在の大相撲は、魅力に乏しいが、やはり宇良だけは飛び抜けている。炎鵬とか翔猿とか言っても、相撲の格が違っている。膝さえ故障しなかったら、レスリング出身の大関も夢ではなかった。足取りや居反り、たすき反り、後ろもたれ以外でも、何をやらかすか分からない曲芸相撲は、単調な突き押し相撲の中で、異彩を放っている。

(写真:NHK)