(141)・・・毒舌相談室(2)『生きる意味』・・・
「どしたん?えらい元気無いがな」
「うん、最近、なんで生きとんか分からんようになってしもた」
「ほぉ、前はなんで生きとったんぞな?」
「医学部に行って、医者になろ思とった。ほじゃけど、なんかやる気が沸かんのよ」
「16歳ぐらいで、未来なんか見えんぞな。なぁんも分からんのが普通じゃわい」
「他のモンは、やる気で頑張っとるし、目標があるみたいじゃけん、あせらいなぁ」
「ありゃ、洗脳されとんよ。鼻先にニンジンぶら下げて、モーレツに走らされとるんよ。いつか目が覚めたら、えらいこっちゃで」
「毎日、学校に行くんが憂鬱です。薬なんか飲んだらいかんじゃろか?」
「馬鹿たれ!そんな魔法の薬なんかあるかいな。なんにもしとうない時は、何にもせんでええがな。遊べ遊べ。それもイヤなら、布団かぶって寝とったらええがな」
「あせるんですよ。皆から遅れるけん」
「遅れるんは、勉強の事じゃろ?人生を考えることにおいては、皆より悩んで、皆より進んどるがな。これが後で効いて来るけんな」
「寝とったら、親が心配して、放っといてくれん」
「ほらほうじゃな。親には、僕からよう言うとくけん。大体、医者になって何をしたいん?」
「よう分からんのよ。親は、それが安定した生活になると思て勧めるみたいじゃ」
「小金を稼ぐために医者になる?うん、早道かも知れんのう。ほじゃけど中途半端な医者になったら、患者に迷惑かけどおしになるぞ。加害者としての罪の意識を持たんなら、それもええかも知れんのう」
「なんとなく、お医者さんになったら、仕事にやりがいが出て来るかも知れんけん」
「ほうかもしれん。ほうじゃないかもしれん。先のことは分からんわい。ただな、医者の世界に入るんは、ヤクザになるんと一緒ぞな。大学では、教授(組長)を頂点にしたピラミッドが凄いし、シマがあって、それを守る為に、医局員(若い衆)は、右に左に走らされるぞな。開業したら、今度は医師会(地元ヤクザ)がおって、なかなか大変じゃわい」
「先生は、どうしたんですか?」
「こんな性格じゃけん、大学にも医師会にも関わらん。こんなめんどい男は、向こうから避けとるわい」
「あ~あ、夢がますますしぼんでしまうなぁ」
「このぐらいでしぼむような夢は、夢じゃあらへん。そのうち、また何かに火が付くけん。バイトでもやって、ふらふら世間を流れとったら、どこかに辿り着くわいな」
「生きとる意味なんか分からんようになってしもたわ」
「精子と卵子がくっついて、たまたま生まれただけの命じゃけん、初めから意味なんかあるかいな。人間の浅知恵で、あとから意味付けして、虚無から脱しようとして来たんよ。本質は、どこまで行っても虚無じゃけん、それ以上の意味を探しても、見つかるわけないがな」
「それ言うたら、何にも頑張る気になれんわい」
「違う違う、瞬く間の人生じゃけん、花火みたいに光って散ったらええんじゃがな」
「なんか余計に不安になってしもたわい。やっぱり、もうちょっと勉強しますわ」
「ありゃ、ほうかな。忘れんときや。1に遊び、2に世慣れ、34が無くて、5に勉強ぞな」