(26)・・・将棋・・・

精神病院時代には、慢性期病棟の奥深く、暇があったら、将棋と花札に明け暮れていた。
掛け金は、いつもたばこ一本である。
花札は、高校時代から、八八を相当にやっていたから、古手のおあにいさんにも、引けを取らなかった。連珠(五目並べ)は、もともと負け知らず。トランプは、ナポレオン狂い。
要するに、囲碁はやらない。ゴルフはやらない。マージャンもダメ。テニスなんか、もっとダメ。大学生の流行には、そっぽを向いて、医者など金持ちのする趣味は、大嫌いだった。

結構好きなのが、将棋だったが、天才的へぼ将棋だったから、強くはなれなかった。受けて勝つより、攻めて負ける方がいいのだから、勝てるわけがない。
精神病院には、ありとあらゆる職種の人が居た。教師、医者、スナックのママ、消防士、ヤクザ、公務員、中小企業の社長、金持ちのボンボン、スリ、ポン引き、研究者、猟師や漁師…だから、世間知らずの青二才でも、あらゆる「先生」のおかげで、わずかだが。世の中を教えてもらった。将棋三昧も、決して無駄ではなかったのである。

性格的に、シングルタスクだから。あれもこれも同時にやることができない。だから、病院改革にのめりこんでから、将棋はしなくなった。強い時で、1~2級。今なら、6~7級かな?

好き嫌いははっきりしていた。坂田三吉が理想だったが、大山に負ける升田、羽生に負ける谷川、酒におぼれた芹沢や自殺した森安、今なら、数少ない振り飛車党の久保利明がいい。
愛媛出身の森信雄7段の弟子、村山たかしは、夭折ようせつした天才であり、羽生と五分五分だった唯一の棋士。テレビで見ていても、全身がむくんでいて、痛々しかった。40度の熱を隠しながらのNHK杯、羽生戦を見ていたが、最後に息切れしてミスをし、逆転負けを食らった。その後、いくばくもなく逝ってしまったのは、まさに天才らしい。「聖の青春」は、ベストセラーになり、映画化された。漫画「月下の棋士」や「3月のライオン」にも、村山がモデルの人物が登場し、記憶の中に生き続けるだろう。

今は、令和の天才、藤井聡太の時代になった。どこから見ても、天才には見えないノホホンとした佇まい。大谷翔平もそうだが、新時代だなぁ。

将棋の歌で有名になったのは、「王将」(村田英雄)だが、
意外に忘れられているのは、「大阪ぐらし」(フランク永井)と「王将・夫婦駒」(石原裕次郎)である。

♪坂田三吉 端歩もついた 銀が泣いてる 勝負師気質♪
♪あばれ香車(やり)なら どろんこ桂馬
乱れ角なら むかい飛車
坂田三吉 勝負にゃ泣かぬ
可愛い小春の ために泣く♪

飛車を可愛がって、王将の事を放ったらかしにしていたへぼ将棋。
優先順位が無茶苦茶な、我が人生そのものである