(40)・・・万能薬・・・

万能薬と言えば、萬金丹が有名だが、漢方で言えば、抑肝散加陳皮半夏がそれに当たると考えている。実証にも、虚証にも使えるし、ほかの薬を使う前の土台薬にもなる。

  1. 不機嫌…イライラ、むしゃくしゃしていると、親子が喧嘩ばかりして、家の雰囲気が悪くなる。「子供に飲ませたいけど、嫌がるんです」と言うなら、お母さんに先に飲んで頂く。これを、母子同服という。効果は、90%。
  2. 癇癪…怒りながら、泣きながら、手足もジタバタ…そんなケースに使う。効果が弱い場合、甘麦大棗湯(72番)を加えたら、効果は95%。
  3. てんかん…西洋薬(抗てんかん薬)が過剰な場合、認知機能低下が見られるので、そういう時には、これを使う。物足らない場合、柴胡加竜骨牡蠣湯(12番)や柴胡桂枝湯(10番)を加える。てんかん処方が、2〜4割削減できる可能性が、90%。
  4. 雑念過多…寝る前に、あれこれ物を考えて、なかなか休まらない。俗に言う「グルグル思考」に使う。効果は、60%。
  5. 高齢者の不眠…絶対に、眠剤服用は避けるべし。ボケるし、譫妄せんもうが出るし、ロクなことは無い。これを使えば、80%は有効だろう。弱ければ、72番を足して、90%有効。
  6. 譫妄…幻視を伴う譫妄は、介護をされる皆さんの一番厄介なもの。しかし、これを使えば、効果は90%以上。ただし、その前に原因薬が入っていることが多いので、邪魔な薬を抜くのが先決である。リスパダールを使うしかないケースは、余程こじれている。
  7. むずむず足症候群(レストレスレッグス症候群)…こいつがあると眠りにくい。案外、昼寝では、あんまり起こりにくい。ビシフロール、レグナイト、ランドセン等が著効するが、僕は、その前に抑肝散加陳皮半夏を使ってみる。これで効果は、75%くらい。
  8. チック症(トゥレット症候群)…顔面チックなら、100%有効。身体チックでも、90%は効果がある。問題は、音声チック。「う~う~」とか、「えへんえへん」とかなら、ほぼ治まるのだが、汚言症は容易じゃない。効果は、60%くらいかな。7歳の汚言症の少年の場合、桂枝加竜骨牡蠣湯を足したら、出なくなった。最悪のケースは、リスパダールを使わざるを得ない。
  9. リストカット、抜毛症…なぜか、前者では、有効率80%。後者では、50%。過食には、効いた試しが無い。

ざっと見て来たが、この83番のみで、かなりの応用が出来る。これに、第2第3の処方を加味して、いくらでも応用が出来るのだ。しかし、実態は「万能薬」とは言えないのが辛いところ。効果が上がらないもの…スマホやギャンブルなどの依存症、衝動性過食嘔吐、部屋からも出ない引きこもり…この3つがうまく行かない。同じ衝動性でも、リストカットには、かなり有効だが、過食に効かないのは、残念ながら、僕の腕が未熟なんだろう…未だ万能薬たり得ず!である。

(出典:クラシエ – 抑肝散加陳皮半夏)