(182)・・・毒舌相談室(9)<相続問題>・・・
「先生、もういかん。もうしんどいがな。生きとるんがつらいぞな」
「何があったんぞな?言うとおみや」
「いや、どもこもないんよ。あしが86まで生きて来れたんは、息子の嫁が居ったけんよ。息子が38で死んでから、子育てしもって働いて、あしの面倒までみてくれたんよ」
「ほう、よう出来た嫁さんじゃなぁ」
「ほいでな、あしが癌になって、あとの事を全部、その嫁に渡すことにしたんよ。あしには、娘が二人居るんじゃけんど、10年ほど来たことも無いし、骨折で入院しても、電話一つ寄越さんのじゃけんな。それが、あしが癌になったと聞いたら、急に顔を出して、相続の話をしよるんじゃけん、いやらしかろがな」
「よいよい、わやじゃがにや。ほじゃけど、こう言うたら身も蓋も無いが、世間にはようある話ぞな」
「うちだけじゃないんかな。あしは、嫁に報いたいんじゃけんど、どしたらええんじゃろ?だいたい、貧乏農家で、どれほどの金も無いけん、分けるほどじゃないんぞな」
「欲の皮が突っ張ったら、もう人間はどうにもならんなぁ。昔、入院患者のお婆さんが危篤になってな。誰も見舞いに来たことが無かったんじゃが、急に娘と息子が、どこからともなく現れたんよ。ほしたら、母親の手を握るどころか、敷布団をめくったり、荷物を空け広げて、通帳を探しだしたんよ。あれには、たまげたわい」
「ありゃ、うちとついじゃぁのう」
「親の金を当てにするじゃの、根本的に間違いじゃ。子どものうちから、親は1円も残さんぞいうて、ちゃんと躾けとくべきじゃわいな」
「ほんとに、そうですらい。まさかこうなると思わんかったけん、しもたなぁ。ほて、あしはどうしたらええんじゃろなぁ?」
「プライベートなことじゃけん、言いにくいけどな。わしじゃったら、強欲なやつには1銭もやらんぞな」
「ほうしたいけど、もめるがな。殺されそうじゃがな」
「第三者をお入れよ。弁護士とか入れんと、めんどそうじゃのう」
「わかりました。ほて、あしのうつ病の薬はお呉れるんじゃろか?」
「何を言うとるんぞな。辛いことがあって、憂鬱じゃろけど、うつ病じゃないんよ。この歳では、下手な薬なぞ飲まれん、飲まれん。雑念を減らして、眠りやすうなる漢方だけにしとこや」
「ふぁ~い」