(44)・・・あゝ我がAC人生・・・
あまり細々と書きたくないが、しんどい家に育った。田舎医者の家の三人兄弟の長男。
代々が医者の家系で、よくあるように医者を継ぐことが、家全体の宿命みたいだった。皆が遊んでいる時間にも、徹底的に勉強をしごかれて、子ども心に親を憎んだ。
95点を取っても、100点じゃないと叱られる。100点を取っても、「それで当り前じゃけん」と言われ、褒められたことはない。
親父は、小心な自分を隠すため、酒ばかり飲んでいた。戦争被害者の癖に、「731部隊の石井四郎中将は偉かったんぞ」というのが口癖で、日の丸君が代万歳であり、自民党が勝つことばかり願っていた。酒の飲み過ぎで、遂には、夜間譫妄が出て幻視に怯え、暴れて手が付けられない日々も多かった。母親が殴られて、薄暗い土間で泣いていた姿を何度も見たから、子ども心に母親を守るために、いつかは親父を成敗してやろうと、毎晩思い詰めていた。体格が大きくなって、暴力には暴力で対抗できるようになったある日、母親は、親父を擁護し、僕は親不孝者だと名指しされた。「こいつら、結局はグルじゃったんか」と力が抜け、その後の自分の生き方が、大きく舵を切った瞬間だった。
やがて、ジャーナリストを目指すという夢も潰れ、抵抗むなしく医者になって、最終的に精神科を選んだ。両親は、「精神科じゃのは、まともな医者が行くとこじゃないぞな」とあからさまに不快がったが、僕にはそれがせめてもの復讐だったから、ひとりほくそ笑んだものである。
やがて、3兄弟の思いはバラバラになり、弟たちは、親父とも酒を酌み交わし、誕生日には、両親に何かを贈るような、「孝行息子」になった。自分はと言えば、自己崩壊を防ぐために、酒はもちろん、この「家」との決別が必要だった。最も受け付けないもの、嫌いなものは、4)「家」3)酒 2)宗教 1)読売巨人である。(→また、後日)
親がアルコール依存症の家庭で育って成人した人「adult children of alcoholics」の略語(ACOA、ACA、アルコール依存者のアダルトチルドレン)から、ACが生まれた。
その後、この概念は広がり、親や社会による虐待や家族の不仲、感情抑圧などの見られる機能不全家族で育ち、生きづらさを抱えた人「adult children of dysfunctional family」(ACOD、機能不全家族のアダルトチルドレン)をACと言うようになった。
子どもたちのタイプは、下記のように分類されている。
*ヒーロー(英雄)
家族の内外で評価され、家族がさらなる活躍を期待し、それに過剰に応え続けようとする。自分の活躍で冷えた両親の関係が一時的によくなったりする為、頑張りすぎてしまう。
*スケープゴート(いけにえ)
一家の負の部分を背負い込まされ、「この子さえいなければ、すべては丸く収まるのではないか」という幻想をほかの家族が抱くことで、家族の崩壊を防ぐ役割となっている。ヒーローの逆のタイプ。
*ロスト・ワン(失われた子供、いない子)
目立たず静かにふるまい、普段はほとんど忘れられている。家族の人間関係から距離を取り、心を守るための行動である。
*マスコット、クラン(道化師)
プラケーターの亜種。道化師のような行動で家族間の緊張を和ませる潤滑油的存在で、家族の目を問題からそらす。表層的にはペットのようにかわいがられる。
*プラケーター(慰め役)
家族の中で暗い顔をしているものを慰め助け、カウンセラーのような役をする。
*イネイブラー(支え手、援助者)
家族のほかのメンバーに奉仕することで、自分の問題と向き合うことを避ける。家族の中で親のような役割をするため偽親とも呼ばれ、第一子がこうした役目になることが多い。
「ACの特徴」
孤独感。自己疎外感。自己否定感情。
罪悪感を持ちやすく、自罰的、自虐的。
必要以上に自己犠牲的。
リラックスして楽しむことができない。
機能不全家族は、発達障害の親子が衝突する最前線でもあり、我が家も、コミュニケーション障害の親子の断絶だったとも言える。つまり、その病理≒生来性+生育歴である。ACとして、幼少期は、ヒーローだったが、その後プラケーターになり、遂には、スケープゴートになったのが、僕であり、未だその軛(くびき)から解放されない74歳でごじゃりまする。